岡山地方裁判所 昭和47年(む)452号 決定 1972年8月10日
主文
原裁判を取消す。
本件保釈請求を却下する。
理由
本件準抗告申立の理由は別紙理由書記載のとおりである。
よつて検討するに、一件記録によると、被告人は石井健吾外一名と共謀のうえ昭和四六年一一月一一日頃大阪市内において福田博ら窃取にかかる約束手形一〇通を盗品であることの情を知りながら買い受けたとして逮捕勾留されたが、結局右手形ついて盗品であることの情を知りながらこれを預り保管したとして起訴されたものであること、ところがその後前記石井健吾が逮捕され、更に捜査が進展するに及び、当初の容疑どおり同人らと共謀のうえ前記手形を盗品であることの情を知りながら買い受けたとして訴因変更請求がなされるに至つたこと、しかして起訴にかかる賍物寄蔵罪の訴因を基準として考察する限り被告人も犯行を認めており、右の限度においては被告人が罪証を隠滅する虞はないが、しかしながら他面訴因変更請求にかかる賍物故買罪の訴因を基準として考察するならば被告人は故買の点を否認しており、他の共犯者も逃走中のため右の立証は主として石井健吾の供述証拠に頼らざるを得ず、被告人のこれまでの供述態度および本件事案の営利的、組織的態様を併せ考慮すると現時点において被告人を釈放するときは石井健吾更には逃走中の共犯者等関係人と通謀のうえ罪証を隠滅する虞のあることが認められる。
ところで起訴後の勾留は審判と将来の刑の執行のためにあり、従つて刑事訴訟法八九条四号にいわゆる罪証隠滅の対象となる事実には勾留事実であつて現に審判の対象となつているもののみならず、審判の対象となることが確実に予定されているものも、これを含ましめるのが相当であると思料されるところ、本件の如く訴因変更請求がなされているときには、いまだその変更許可がない場合でも、公訴事実の同一性を害しない限り裁判所は右変更を許可しなければならないのであるから、本件の変更請求された訴因は、審判の対象となることが確実に予定されているものにあたると言え、結局本件保釈請求は、右八九条四号に該当し、必要的保釈の場合にあたらない。
そこで進んで裁量によつて保釈を許すべきか否かにつき検討するに、本件は手形の健全な流通を阻害する悪質事案であり、記録中よりうかがえる営利的、組織的犯行態様に照らし現時点において保釈を許すのが適当であるとは認められない。
してみると保釈を許可した原裁判は失当であり、本件準抗告は結局理由があるので、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により原裁判を取消し、本件保釈請求を却下することとし、主文のとおり決定する。
(大森政輔 松尾政行 渡辺温)